社労士通信

労災保険とは?加入対象者や給付についてを解説します

2021年11月19日

労災保険とは、仕事中のケガ、通勤途中のケガ、あるいは仕事が原因で病気になったような場合にかかった治療費、仕事ができない間の休業の補償などをしてもらえる制度です。
なお、労災保険はご自身のケガや疾病に対する保険です。物を壊したり、他人にケガをさせたたりといった場合の賠償責任保険ではありません。

労災保険は雇用されている労働者ならば当然に加入しなければならない保険です。この記事では社会保険労務士が解説いたします。

労災保険とは?

労災保険は仕事中や通勤途中に起こった災害が原因でケガをした・病気になったという場合に治療費、休業補償、後遺症への補償、死亡した場合の遺族への補償などが保険という形で給付されます。
労災保険は国が運営しております。そのため手厚い補償が受けられるのが特徴です。

労災保険の加入対象は?

労災保険は労働者であれば正社員、パート、アルバイト問わず雇用関係にあれば誰しもが加入する保険です。労災保険は無記名式のため雇用保険や社会保険のように個人個人名前を役所に届け出る必要はありません。雇用された段階で自動的に加入者になるからです。
例えば、週に2日合計10時間働いているパートの方でもその10時間に対して労災保険に加入します。雇用契約を結び働き始めた段階で労災保険に加入となります。

労災保険の加入手続き

労災保険の加入対象者が決まったら、その年度の概算の賃金(残業代、交通費を含む大体の賃金総額)を算出した上で、保険関係成立届及び概算保険料申告書に記入して管轄の労働基準監督署に提出します。この際に注意すべき点があります。

  • 雇用保険に加入する方がいる場合は雇用保険分の保険料も同時に申告します。ただし、二元適用事業所を除きます。二元適用事業所とは多くの場合建設業を指します。
  • 提出にあたっては会社の登記簿謄本が必要となります。個人の場合は住民票。必要な書類は前もって労働基準監督署に聞いておきましょう。
  • 提出期限は従業員を雇用し始めた日から10日以内です。また、保険料の納付期限は50日以内です。忘れずに手続きしましょう。
  • 小売業などで本店があって、支店があるという場合には注意が必要です。本店・支店それぞれで保険関係を成立させ、本店で一括して保険料の支払いや管理をしますという手続きをしなければなりません。労災保険は会社単位ではなく、場所的に独立した事業所単位で成立させるものと考えておけばいいでしょう。ただし、一時的なものは除きます。例えば、デパートのフェアなどで小売店が数日間出店する場合などは一時的とされ、労災保険の手続きは不要となります。

労災保険料の負担は誰がするのか?

労災保険料は一部の例外を除き全額会社が負担します。労災保険料の計算方法は極めて単純です。支払った賃金(交通費、残業代なども含みます)に業種ごとの労災保険料率を乗じて計算します。
業種ごとに労災保険料率が異なるのは、例えば工場で働く人、建設現場で働く人、小売店の店頭で働く人、事務所で働く人、仕事には様々あります。それぞれ仕事中における危険度に違いがあるからです。

給付基礎日額

労災保険の給付の額を説明するにあたり給付基礎日額という言葉を理解する必要があります。
給付においてその多くが給付基礎日額を元に計算します。
最初に給付基礎日額について説明いたします。

給付基礎日額とは?

先ほど労災保険料の計算をする際に支払った賃金に業種ごとの労災保険料率を乗じて計算すると説明しました。
雇用されている側からすると支払った賃金は貰った賃金とイコールです。
ざっくり言うと労災に遭う前3か月間の貰った賃金の1日当たりの平均額が給付基礎日額です。

給付基礎日額の計算方法

給付基礎日額は、労災に遭う前の賃金締切日から3か月間の賃金総額をその期間の労働日数で除して算出したものです。
また
この賃金には基本給や手当だけでなく残業代等も含めて計算します。
ただし、賞与や臨時の賃金は含みません。
実際の例で計算して見ていきましょう。

暦日数 労働日数 賃金総額
6月 30日 22日 220,000円
7月 31日 23日 230,000円
8月 31日 23日 230,000円

これを計算式に当てはめてみます。

3か月の賃金合計:680,000円

3か月の暦日数:92日

原則的な計算方法による給付基礎日額:680,000÷92日=7,391.04円(銭未満切り捨て)

ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められており労働日数が少ない場合など、
総額を労働日数で除した6割に当たる額の方が高い場合はその額を給付基礎日額として採用します。
仮に先ほどの例の方が1日当たり1万円の日給制だったとするとどのような計算になるのか見ていきます。

3か月の賃金合計:680,000円

3か月の労働日数:68日

例外的な計算方法による給付基礎日額:680,000÷68日×0.6=6,000.00円(銭未満切り捨て)
この例の場合は原則的な計算方法のほうが高くなりますので、原則的な計算方法による給付基礎日額を採用します。

労災保険の補償内容と給付額

この章ではケガや病気になったときにどういう補償が労災保険から受けられるのかを見ていきます。
労災保険の給付は非常に多岐に亘っており、適切なタイミングで支給申請を行う必要があります。

業務災害と通勤災害とで給付の名称に違いがありますが、中身はほぼ同じです。
一部の例外を除いて、業務災害の場合は〇〇補償給付となり、通勤災害の場合は〇〇給付となります。
ここでは主な給付を説明いたします。

治療費:療養(補償)給付

労災保険からケガや病気が治るまで治療を受けることができます。費用の支払いを抑えたい場合には労災指定医療機関で治療や薬の処方を受けましょう。労災指定でなかった場合は一旦窓口で全額支払って、その領収書を添付して労働基準監督署にかかった費用の請求をすることになります。このように労災指定医療機関の方がだいぶ簡単に労災保険の使用ができます。

  • 「治る」とは症状が固定し、これ以上治療しても効果が期待できない状態を言います。
  • 「治った」後は治療を継続することはできません。また、次で説明する休業補償も終わります。その際に後遺症があった場合には障害に関する給付が受けられる場合があります。

休業の際の補償:休業(補償)給付

働くことができず、かつ賃金を受けることができない場合に休業4日目から給付されます。休業に関する給付はこのような説明が多いですが、一点注意すべきことがあります。休業4日目というのは通常の場合、医療機関での初診日から4日目とされることが多くあります。
例えば、12月1日にケガをして10日ほど医療機関に行かずに12月11日に初めて医療機関に行った場合に、給付の開始日は12月11日から4日後の12月14日ということになります。

給付基礎日額の8割が支給されます。
実際の支給に当たっては意識することはあまりありませんが、内訳は休業(補償)給付6割と休業特別支給金2割です。
交通事故で自賠責保険から休業損害を支給される場合など特殊なケースにおいては休業特別支給金の2割のみの支給となります。

後遺症に関する補償:障害(補償)給付

ケガや病気が治療をしても効果が期待できない状態になったときに症状が固定、つまり後遺症として障害等級に応じて年金又は一時金の給付が受けられます。

障害等級が1級から14級までとなっており、1級から7級までは年金で8級から14級までは一時金となります。
実際の支給額は障害等級に応じて決められた日数に給付基礎日額を乗じて支給額が決まります。
障害(補償)給付の他に障害特別支給金が支給されます。

死亡に関する遺族への補償:遺族(補償)給付

ケガや病気が原因で死亡した場合に遺族に対してその人数に応じて年金が支払われます。
ただし、死亡した方の収入によって生計を維持していた方がいない場合には一時金が支払われます。

年金は遺族(補償)年金と言い、遺族の人数に応じて決められた日数に給付基礎日額を乗じて計算します。
一時金は遺族(補償)一時金と言い、こちらは遺族の人数に関係なく給付基礎日額の1,000日分が支給されます。

死亡に関して埋葬を行った場合:埋葬料(埋葬給付)

死亡した人の葬祭を行ったときに、葬祭を行った方に対して給付されます。
次のいずれか高い金額が支給されます。

  • 31万5,000円+給付基礎日額30日分
  • 給付基礎日額60日分

労災保険の特別加入制度

労災保険は会社に雇用されている方を対象とした保険です。そのため会社代表者などの雇用されていない方、フリーランス・一人親方などの自営業者は対象外です。
しかし、会社の代表者であっても他の従業員と同様な業務をしている方もいるでしょう。また、IT系のフリーランスの方、あるいは建設業の一人親方などは個人事業主と言ってもお一人で仕事をしている方も大勢います。
こういう方々も労災保険の仕組みを適用させて万が一の際に補償を受けられるようにした制度があります。
労災保険の特別加入制度と言います。特別加入制度は労災保険における例外的な制度です。
通常、労災保険の加入は労働基準監督署で行いますが、労災保険の特別加入は直接労働基準監督署に行ってもできません。
労働保険事務組合や一人親方団体など受け皿となる組織を通じて加入する必要があります。

この制度は多くの面で通常の労災保険とは違いがありますので改めて別の記事で解説致します。

まとめ

労災保険は他の社会保険や民間の保険と比較しても非常に手厚い補償が受けられます。
ケガをしたり、病気になったりすると色々な面に気を配る必要があるため保険のことが後回しになる場合があります。
万が一の際にもご自身のみならずご家族の生活を安心して送るためにも労災保険について前もって知っておくことは大事でしょう。

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