雇用保険の兼務役員制度とは?
2021年12月19日
雇用保険には兼務役員という制度があります。
雇用保険はその名の通り法人・個人を問わず会社組織に雇用されている方を対象とした保険です。したがって、雇用関係にない役員の方は雇用保険の対象外となります。
しかし、役員の方の中には工場長兼役員のように労働者の部分、つまり雇用契約の部分を併せ持った方もいます。
法人の役員は原則として被保険者となり ません。 しかし、同時に部長・支店長・工場長等会社 の従業員としての身分も有している(=兼務 役員)場合であって、就労実態や給料支払などの面からみて労働者的性格が強く、雇用関 係が明確に存在している場合に限り、被保険者となります。
「雇用保険事務手続きの手引き」より
この記事では雇用保険の兼務役員制度を中心について解説致します。
Contents
兼務役員の制度とは?
雇用保険は雇用関係にある方、いわゆる労働者を対象とした保険のため本来役員は対象外となります。
しかし、労働者として勤務した後に会社の依頼で役員に就任する方がいます。
また、ヘッドハンティング等で入社をお願いした方に役員をお願いすることもあるでしょう。
純然たる役員として会社に所属するのであれば問題はありませんが、役員としての仕事をする一方で、労働者として仕事をする場合もあります。
この場合、役員報酬を受け取りつつ、労働者としての賃金も受け取ることになります。
兼務役員の賃金・報酬の取り扱い
役員は一会計期間において常に同額の役員報酬を支払い必要があります。
兼務役員の役員報酬部分も同様です。ただし、労働者としての賃金については支払額が変動しても問題はありません。
役員報酬10万円、賃金50万円という兼務役員の方が残業をした場合、賃金50万に対する残業代を計算して支払うことになります。
賞与
役員の賞与は事前に届け出る必要があります。
労働者としての賞与は必要ありません。
兼務役員の雇用保険、労災保険、社会保険の加入は?
兼務役員の公的の保険の取り扱いは社会保険と労災保険、雇用保険とで違いがあります。
雇用保険の加入は?
兼務役員になったからと言って全員が雇用保険に加入できるわけではありません。
兼務役員は役員報酬と賃金の両方を受け取ると説明いたしました。
まずは役員報酬と賃金とを比較して賃金のほうが多くないと雇用保険に加入できません。
例えば、役員報酬10万円、賃金50万円というケースは問題ありませんが、これが逆の場合は雇用保険に加入不可となります。
また、代表権や業務執行権のある代表取締役等も雇用保険に加入できません。
兼務役員の雇用保険料は?
兼務役員の雇用保険料は労働者としての賃金部分のみが計算の対象となります。
例えば、先の例役員報酬10万円、賃金50万円の場合は雇用保険料の計算は下記になります。
500,000円×3/1000=1,500円 (一般の事業の場合)
余談になりますが、労災保険も労働者としての賃金部分のみが計算の基礎となります。
計算方法は500,000円に事業の種類に応じた労災保険料率を乗じて計算します。
労災保険の加入は?
兼務役員の労災保険は雇用保険と同様の考え方で問題ありません。
ただし、雇用保険には加入するための資格要件があります。
具体的には下記のとおりです。
役員になる方なのでほぼ問題はなくクリアできるでしょう。
- 勤務開始時から最低31日間以上働く見込みがあること
- 1週間あたり20時間以上働いていること
- 学生ではないこと
雇用保険、兼務役員の届け出
雇用保険の兼務役員の届け出はハローワークに行います。
新たに入社した方が兼務役員の場合と元々在籍していた方が兼務役員になった場合とで若干手続きは異なります。
まず、兼務役員にあたって必要書類を説明いたします。
申請書類は兼務役員実態証明書です。ただし、提出書類はこれだけではありません。
確認資料として下記の書類を準備する必要があります。
- 登記事項全部証明書(役員就任時)
- 定款
- 役員報酬規程
- 就業規則・給与規程
- 賃金台帳
- 出勤簿またはタイムカード
- 労働者名簿
- 人事組織図
- 議事録
- 雇用保険資格取得等確認通知書(入社時に兼務役員の届け出をする場合は雇用保険資格取得届を提出します。)
社会保険の加入は?
兼務役員の社会保険の加入は雇用保険、労災保険の考え方と異なります。
賃金、報酬の区分なく関係なく支払っている総額を社会保険料計算の基礎に参入します。
役員報酬10万円、賃金50万円の場合は合算した額60万円を社会保険料の計算の基礎(報酬月額59万)とします。
まとめ
雇用保険の兼務役員についてをメインに解説いたしました。
兼務役員の場合、給与計算や雇用保険の届け出にあたって非常に面倒な部分があります。
兼務役員とする場合はこの記事で解説したことに注意して滞りなく手続きをするようにしましょう。