労災保険料の計算方法や注意すべきポイントを分かりやすく解説
2022年04月21日
労災保険料は従業員に支払った賃金総額に業種ごとに定められた労災保険率をかけて求められます。
賃金総額に含む範囲と、労働災害のリスクごとに決まっている労災保険率がポイントです。
この労災保険料率は法律で決められております。
労災保険料は社会保険料や雇用保険料と違い全額会社負担(事業主負担)のため雇用されている方は特に意識することはありません。
一人でも従業員を雇用している場合は労災保険に加入することは会社の義務であり、
また労災保険料を全額負担することも会社にとって必要なことでもあります。
ちなみに、建設業の一人親方などの労災保険の特別加入者は会社と雇用関係にはありません。
あくまでも個人事業主として請負契約や委託契約で仕事をしていますので、労災保険料の負担は自分自身ということになります。
この点の違いはありますが、労災保険料の計算ということにおいては雇用契約にある方も一人親方などの特別加入者も労災保険料の計算方法に大きな違いはありません。
この記事では労災保険料の計算方法を詳しく解説します。
労災事故の時の怪我や病気を治療するための治療費、仕事を休んだ分の給料の数割、障害が残った場合の年金や一時金を支給する労災保険。
労災保険料は会社が全額負担するため、労働者は1円も負担しません。仮に会社が労災保険に加入していなかった場合、労災時は保険給付額の100%もしくは40%を会社が負担することになります。
以上をふまえ、ここでは会社や事業主が支払う保険料の計算方法を詳しく解説していきます。・
労災保険料の基本的な計算方法
労災保険料は
従業員の賃金総額×労災保険率
によって計算されます。
従業員の賃金総額は
従業員の給与×従業員数
で計算できます。ただし、毎月の給与以外にもボーナスなどの賞与が含まれるので、全ての賃金を含めたうえで計算しましょう。
この労災保険料とは、業種ごとの労働災害リスクをふまえて業種ごとに算出される値で、
労働災害のリスクが大きい事業の方が率が高くなるのが特徴です。
また、同じ業種の中でも例えば自動車製造業と食品製造業とでは事業の内容が異なるように業種の中でもさらに細分化され、労災保険料率が決定されます。
この細分化された一覧を労災保険率適用事業細目表と言います。下記の労災保険料率一覧で業種によって労災保険料率に差があるのはこのためです。
★2021年度の労災保険料率一覧★
- 林業:1000/60
- 漁業:1000/18または1000/38
- 鉱業:1000/2.5~1000/88
- 建設事業:1000/6.5~1000/62
- 製造業:1000/2.5~1000/26
- 運輸業:1000/4~1000/13
- 電気・ガス・水道または熱供給の事業:1000/3
- その他の事業:1000/2.5~1000/13
上記の労災保険料率は毎年厚生労働省から発表されます。労災保険料率が前年と変更となっている場合があるので注意が必要です。
なお、労災保険料率は法律に基づいて3年に1度見直しがされます。直近の見直しは平成30年にありましたので、
次に見直しがされるのは令和3年でしたが見直しは見送られました。
ちなみに、一人親方などの特別加入者の場合は計算方法が一部計算方法が異なります。
被雇用者の場合従業員の給与を計算の基礎としましたが、特別加入者の場合は給付基礎日額×365日を賃金総額とし、
これに労災保険料率を乗じて労災保険料を計算します。この点注意が必要です。
実際に労災保険料を計算してみる
では実際に例を出して計算してみましょう。
ここでは
- 従業員数:20人
- 平均給与:500万円
- 業種:貨物取扱業
の会社があると仮定して、計算していきます。
従業員の賃金総額=500万円×20人=1000万
労災保険料=1000万円×0.009=90万円
労災保険率は9/1000の計算になっている点に、注意してください。
今回仮定した会社であれば、年間にかかる労災保険料90万円を、雇用保険料と一緒に支払います。
なお、保険料が一定額以上の場合3分割して支払うことも可能です。
労災保険料を負担するのは誰か
原則、労災保険料を負担するのは会社です。毎年4月1日から翌年の3月31日までの保険料を1年単位で計算して都道府県労働局または、労働基準監督署に納付します。
労災保険は必ず加入しなければならない保険です。個人事業主の場合でも、従業員として社員を雇った場合は、労災保険料を労働基準監督署に納める必要があります。
しかし
- アルバイトの労災保険
- 年度の途中で入社した社員の労災保険
- 複数の企業間で契約を結び、元請、下請け、孫請けとなっている場合
- 出向した社員の労災保険
これらは誰が負担するべきなのでしょうか。ここでは少しイレギュラーな場合を想定して、労災保険料の負担者に関して解説していきます。
アルバイトでも基準を満たしている場合には労災保険料を支払う
労災保険はパート・アルバイトの従業員含め、全ての従業員の加入が義務付けられています。
労災保険は雇用形態に関係なくというのが規則で決められているため、加入者が正社員でなくても加入できます。
万が一労災保険に加入しておらず、パートで契約した従業員が怪我をした場合、労災保険で給付された額の100%または40%を支払わなければなりません。
また給付金を負担するほか、納めていなかった労災保険料を追徴する可能性もあります。
年度の途中で入社した社員も労災保険に加入する必要がある
年度の途中(4月1日~翌年3月31日)までの間に従業員が入社した場合も、労災保険に加入します。
ただし、すでに1人以上の従業員がおり、労働基準監督署で加入手続きを済ませている場合の手続きはありません。
労災保険は加入時と、従業員がいなくなった脱退時のみです。
ただし
- 年度更新時に申告した賃金総額が、当年の2倍を超えている
- 賃金総額が増え、すでに納めている保険料より13万円以上増えそう
以上2つの条件に当てはまる場合は別途手続きを行い、「増加概算保険料」として増額分を納めます。
元請・下請け・孫請け関係の会社は元請企業が労災保険料を支払う
もし会社が元請となって仕事を行う場合は、元請企業が労災保険の加入手続きを取ります。
労災保険は従業員すべてに加入させる義務があるので、もし加入手続きを怠った場合は、
追徴金と労災保険として給付された額の100%または40%を負担しなければなりません。
出向した社員の労災保険は出向先の企業が支払う
会社の従業員が別の会社に出向する場合、「指揮命令権」を出向先の企業が持っている場合は出向先の企業が労災保険料を支払います。
指揮命令権とは、従業員に対して業務の指示を行う権限のこと。雇用形態によって指揮命令権の所在が異なるので、しっかりチェックしておきましょう。
ただし、代表取締役としての出向は労災保険の対象とはならず、また、在籍出向は出向元企業が労災保険料を負担します。
ちなみに派遣企業の場合は、派遣元の企業が労災保険の手続きを行って、労災保険料を支払います。
労災保険料の計算で注意すべきポイント
ここまで労災保険料に関して解説してきましたが、労災保険の取り扱いは複雑で分かりにくい点が多々あります。
特に
- 賃金総額の計算方法
- 労災保険料率は3年ごとに改定(変更)される
- 労災保険料の違い
- 正社員以外の従業員も労災保険に加入する
- 保険料を納める仕組み
には注意が必要です。
賃金総額に含まれるものとそうでないもの
賃金総額には含まれるものとそうでないものがありますが、労災保険料に直接かかわる部分なので間違いがないように精査しなければなりません。
基本的に賃金総額に含まれるのは
- 基本給
- ボーナスなどの賞与
- 通勤手当(定期券や回数券も含む)
- 各種手当
- 企業が負担した雇用保険料や社会保険料
- 前払い退職金
などです。
一方
- 役員手当
- 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金など事業主都合で支払われる一時金
- 退職時に支払われる退職金
- 出張費用
- 宿泊費用
- 会社負担の生命保険
- 傷病手当金・休業補償金
などは賃金総額には含まれません。
特に、退職金は給料に上乗せするなどで支払われた「前払い退職金」のみが賃金総額に含まれるので、注意が必要です。
労災保険料率の改定(変更)に注意
労災保険料は従業員の賃金総額×労災保険率によって求められますが、労災保険率はおよそ3年ごとに見直される可能性があります。
毎年厚生労働省が改定の有無を掲示しているので、しっかりチェックしておきましょう。
複数の事業がある場合、労災保険料は事業ごとに行う
もし複数の事業を手がけていれば、労災保険料は事業ごとに申請し、支払わなければなりません。
これは事業ごとに怪我や病気のリスクが異なり、それによって労災保険率が決められているからです。
例えば怪我の多い金属鉱業・非金属鉱業・石炭鉱業は労災保険率が88ですが、一方で通信業・包装業・新聞業や金融業・保険業・不動産業は2.5と定められています。
また、建設業は他の事業と比較して特殊で事務所と現場とで当然危険度が異なることから現場は現場の労災保険料率、事務所は事務所の労災保険料率をそれぞれ計算して納付します。
そのため通常建設業は現場と事務所それぞれで事業の届け出をします。
事業の種類ごとに、しっかり労災保険料を納めましょう。
アルバイト・パート・出向社員・派遣社員の労災保険に注意
見落としがちなのは、アルバイト・パート・出向社員・派遣社員など、通常の正社員とは異なる従業員です。
原則として労災保険は労働者全員が加入しますので、雇用形態によって労災保険料を支払わなくて良いことにはなりません。
もし従業員が増えた場合は、従業員増加後の賃金総額が元の2倍以上になり、それによって納める保険料が13万円以上増える場合には、増額分を納めます。
労災保険に入っていないということにならないよう、しっかり確認しておきましょう。
労災保険料のメリット制とは?
メリット制とは各事業ごとに労災事故が発生した割合に応じて労災保険料が上がったり下がったりする制度です。
これは事業が同じでも災害防止努力の違いにより労災事故の発生割合が異なるため、
労災事故が多かった事業に対しては労災保険料を増額し、逆に少なかった事業に対しては労災保険料を減額します。
ただし、このメリット制は全事業に適用されるわけではありません。事業の種類と規模に応じて非適用の場合もあります。
また、メリット制の労災事故の発生割合は業務災害のみ考慮されます。通勤災害は考量されません。
ちなみに、特別加入者の場合はメリット制は無関係です。
まとめ
労災保険は従業員全員が加入し、労災保険料率は事業ごとに異なります。
労災保険料は自社で雇っている従業員全員が加入する保険です。労災保険料の計算方法は
従業員の賃金総額×労災保険率
です。また、労災保険料は全額会社負担(事業主負担)です。労災保険料において押さえておくべき点は多くありません。
労災保険料を求めるときは、賃金総額にボーナスや交通費、前払いした退職金、会社で負担した労災保険や社会保険も含むのがポイントです。
また、労災保険率は業種ごとに掛け率が異なるため、複数事業がある場合は事業ごとに加入手続きを行う必要があります。
この賃金総額に含む範囲と労災保険率をしっかりおさえておきましょう。