社労士通信

【2024年4月】労働条件明示のルール改正で変更になることとは?対応すべき点もご紹介

2023年12月03日

2024年4月に労働条件明示のルールが変更になり、新たに4項目の労働条件が追加されます。

「具体的に何が変更されるのか?」
「実務にどのように影響するのか?企業側はどのような対応が必要なのか?」

上記のような疑問をお持ちの人も多いのではないでしょうか。

新ルールが開始される前に具体的な改正内容を確認し、必要な準備をしておくことが大切です。

本記事では、労働条件の明示義務について、目的や対象者、改正による追加事項などを詳しくご紹介します。
労働条件の明示

労働条件の明示義務とは?

労働基準法第15条において、従業員を雇用する企業には、労働条件を明らかに示すことが義務付けられています。
まずは、その目的や違反した場合の罰則、労働条件の具体的な明示事項について確認しておきましょう。

明示する目的

事前に労働時間や賃金などに関する労働条件が明らかにされていないと、労働者は不安を抱えながら働かなければなりません。
そのため、労使トラブルの防止と労働者の保護を目的として、労働条件を明示することが企業に義務付けられています。

明示義務を怠った企業には、30万円以下の罰金が科せられる場合もあります。

また、明示した労働条件と異なる内容があった場合、労働者は契約を解除して退職することも可能です。
上記の場合、明らかに会社側に非があるため「会社都合退職」として即日退職できます。

明示する内容

労働条件として明示する事項には「絶対的明示事項」と「相当的明示事項」の2種類があります。
それぞれどのようなものなのかを詳しくご紹介します。

絶対的明示事項

「絶対的明示事項」とは、企業が従業員に対して必ず示さなければならない事項のことです。

具体的な事項には、以下のようなものが挙げられます。

  • 契約期間に関すること
  • 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
  • 就業場所、従事する業務に関すること
  • 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
  • 賃⾦の決定⽅法、⽀払時期などに関すること
  • 退職に関すること(解雇の事由を含む)
  • 昇給に関すること

出典:厚生労働省「労働基準法の基礎知識

絶対的明示事項については、書類を交付して明示することが必要です。

相当的明示事項

一方の「相当的明示事項」とは、定めに応じて明示しなければならない事項のことです。
具体的な事項には、以下のようなものが挙げられます。

  • 退職手当に関すること
  • 賞与などに関すること
  • 食費、作業用品などの負担に関すること
  • 安全衛生に関すること
  • 職業訓練に関すること
  • 災害補償などに関すること
  • 表彰や制裁に関すること
  • 休職に関すること

出典:厚生労働省「労働基準法の基礎知識
相当的明示事項は絶対的明示事項と異なり、口頭のみで明示することも可能です。

2024年4月に労働条件明示のルールが変更される背景

労働条件
2024年4月に、労働条件明示のルールが改正されることが決定しています。
その背景の一つに「有期契約労働者」が増加していることが挙げられます。

有期契約労働者とは、契約社員やパート・アルバイトなど、企業が労働期間を定めて雇い入れる人たちのことです。
有期契約で働く人の数は年々増加しており、そのほとんどが有期契約を更新しています。
そこで、無期契約への転換に対応できるよう、労働条件にルールを追加する必要が出てきました。

また、勤務地限定正社員や職務限定正社員など、多様な正社員の雇用ルールを明確化するためにも、改正が必要になったと考えられます。

労働条件明示のルール改正による4つの変更点

今回の改正により、新たに4つの事項が追加されます。

それぞれの詳しい内容を確認しておきましょう。

就業場所・業務の変更範囲

これまでは就業場所や業務の内容について入社直後の条件を明示している企業がほとんどでした。

改正後は入社直後に加えて、配置転換によって勤務地が変わることや業務変更が変更になることを想定し、その範囲についても最初から明示することが義務付けられます。

変更の対象となるのは、無期契約労働者をはじめ、パートやアルバイト・契約社員・派遣労働者・定年後に再雇用された労働者など有期契約労働者を含めたすべての労働者です。

これらの明示は労働契約を締結する際のほか、有期労働契約の契約更新のタイミングごとに行う必要があります。

労働者にとっては、将来想定される勤務地や業務内容が明示されることで、キャリア形成やワーク・ライフ・バランスを図りやすくなる点がメリットです。

また、配置転換による勤務地や変更になり得る業務内容が限定されていない場合は「会社が定める事業所/業務」と明示できます。

更新上限

現行のルールでは、有期契約労働者に対して「契約期間」と「更新の有無」「更新の条件」が明示されていました。
改正後はさらに「更新する回数、または通算契約期間の上限」がある場合の明示も必要になります。

更新上限については、パートやアルバイト・契約社員・派遣労働者・定年後に再雇用された労働者など有期契約労働者が対象です。

労働条件通知書には「更新回数は〇回まで/通算契約期間は〇年まで」という項目が増えるため、記載しなければなりません。

加えて、労働契約締結後に更新上限を設ける場合や、最初に設定した上限を短縮する場合は、その理由をあらかじめ労働者に説明することも義務付けられます。

また、明示は労働契約締結時と契約更新のたびに行う必要があります。

無期転換申込機会

有期契約期間が通算5年を超えたときには、労働者が申し込みをすることで、期間の定めがない無期契約に転換することが可能です。

労働条件明示のルール改正により、契約更新のタイミングごとに無期転換を申し込むことができる旨を明示するよう義務付けられました。

これまでは無期転換の申し込みができる権利があることを知らない労働者の割合が多く、その権利があるにもかかわらず使用されないことも少なくありませんでした。

今回のルール改正により、企業内で無期転換について相談できる体制を整えることも求められるため、無期転換の申込機会について認知度がさらに高まることが期待されるでしょう。
「無期転換申込機会」については、有期契約労働者のうち無期転換申込権が発生する人が対象となります。

無期転換後の労働条件

契約更新のタイミングごとに無期転換後の労働条件を明記することも義務付けられます。

無期転換後の労働条件が明確になっていないと、無期転換の申し込みをするかどうかを決めるのが難しい労働者も多いでしょう。
そのため企業は、業務の内容や責任の程度・異動の有無や範囲などを有期契約労働者に説明するよう努めなければなりません。

無期転換の前後で同じ労働条件を採用するのであれば、その旨を記載する方法で問題ありません。

無期転換後の労働条件については、正社員などとのバランスを考慮して決めることが重要なポイントになります。

例えば、正社員のように、他の労働者と待遇に差がある場合は、具体的な内容と理由についてしっかり説明したうえ、労働者の理解を得られるよう努めなければなりません。

無期転換後の労働条件は無期転換申込機会と同様、有期契約労働者のうち無期転換申込権が発生する人が対象となります。

労働条件明示のルール改正までに企業が対応すべき2つのこと

労働基準法の改正
2024年4月に労働条件明示のルールが改正されるまでに、各企業がやっておくべきこと・確認しておくべきことをまとめました。
改正後、スムーズな対応ができるよう、早めに準備をしておきましょう。

労働条件通知書を作成し直す

労働条件明示のルールが改正されるまでに、労働条件通知書を作成し直しておきましょう。

労働条件通知書については、先ほどご紹介した以下4つの項目を追加したものにしなければなりません。

  • 就業場所・業務の変更範囲
  • 更新上限
  • 無期転換申込機会
  • 無期転換後の労働条件

新しく労働条件通知書を作成し直すのが難しい場合は、厚生労働省のパンフレットにある「モデル労働条件通知書」を参考にするとよいでしょう。

出典:厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」

従業員の労働契約・労働条件を確認する

有期契約労働者の更新上限を再確認するために、これまでに何回契約を更新しているのか、通算でどのくらいの期間勤めているのかを明確にしておきましょう。

更新上限の新設や短縮を行う場合は、従業員に説明できるよう理由をまとめておくことも必要です。

また、無期転換権が発生する従業員の有無も確認し、リストアップしておきましょう。

あわせて、無期転換後の労働条件についても検討を始めることをおすすめします。

まとめ

2024年4月に改正される労働条件明示のルールについて、変更の範囲について詳しくご紹介するとともに、改正までの間に企業が確認・対応すべき事項についてもまとめました。

労働基準法により、企業は従業員に対して労働条件を明示するよう義務付けられています。

2024年4月に実施されるルール改正により「就業場所・業務の変更範囲」「更新上限」「無期転換申込機会」「無期転換後の労働条件」の4事項について明示することが新たに決定しました。

この変更によって企業や労働者にどのような影響があるのか、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。

また、これまで作成していた労働条件通知書に、新たな項目を追加しなければならないという企業も多いでしょう。

ルール改正にスムーズに対応できるよう、企業が行っておくべき準備についても、ぜひ参考にしてください。

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