社労士通信

労働条件の変更は口頭でも可能?労働条件通知書の必要性や内容もご紹介

2023年12月24日

企業が労働者を雇用する際には、どのような条件で働くのかを明示しなければなりません。

労働者にとって不利益な内容にならなければ労働条件を途中で変更することも可能なため、変更方法や変更の際の注意点なども確認しておくとよいでしょう。

企業が労働条件を明示する際には、口頭だけでなく「労働条件通知書」を交付することが義務づけられています。

労働条件通知書の重要性や、交付されない場合に労働者が負うリスクについてもチェックしておきましょう。

本記事では、2024年4月に追加される労働条件の追加事項についてもご紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
労働条件

労働条件の明示義務とは?

労働基準法では、企業が労働者を雇用するにあたって労働条件を明示するよう義務づけられています。

労働条件とは、就業する場所や始業時間・就業時間、契約期間、賃金、残業の有無などに関する条件のことです。

労働条件は雇用形態にかかわらず明示される必要があるため、パートやアルバイトについてもどのような労働条件で採用するのかを明らかにしなければなりません。

労働条件の明示には、雇用後のトラブルを防止することや、不当な労働から労働者を保護するという目的があります。

明示せず従業員を雇用した場合、雇用主は労働基準法違反として30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため、注意が必要です。

労働条件は途中で変更できる?

労働者に明示した労働条件は、内容によっては途中で変更することも可能です。
変更が認められないケースや、変更する際の手順をご紹介します。

一方的に不利益な変更を行うことは認められない

労働条件を変更できるのは、使用者と労働者の間で合意がある場合です。
つまり、使用者が一方的に労働条件を変更することはできません。

そのため、労働者にとって不利な条件に変更する場合は合意が得られない可能性が高いでしょう。

労働者の合意なく一方的に変更することは労働基準法違反で無効となります。

労働条件を変更することで労働者にとって不利益となる事柄には「賃金や退職金・賞与の減額」や「労働時間の変更」「休日日数の変更」などが挙げられます。

ただし、労働時間が増加することで賃金も増えるケースや、休日の日数が増えても賃金が変わらないケースなどは、労働者にとっての不利益は生じないため、問題なく変更できる場合がほとんどです。

労働条件変更の方法

労働者が不利益を受けない、または不利益の程度が低い場合や、変更することが妥当な場合、変更の必要性があると考えられる場合などは、労働条件の変更が合理的であると判断されます。

この場合は労働条件の変更が可能となるため、変更方法を確認しておきましょう。

まずは、労働者から個別に合意をもらいます。
例えば、個人面談を実施して、変更する理由や変更内容を説明するのが一般的です。

このとき、双方が合意したことを証明する「覚書」を作成して残しておくと、後のトラブルを防止できるでしょう。

労働者の合意が得られたら労働協約の締結を行い、変更した内容を労働基準監督署に届け出ます。

労働基準監督署に届け出たあとは、労働条件を変更した旨を従業員に伝えれば変更手続きの完了です。

労働条件を変更する場合の注意点

労働条件を変更する際は、パートやアルバイトなど雇用形態にかかわらず、すべての労働者から合意を得ましょう。

同時に、変更内容が労働基準法に違反していないか確認する必要があります。
労働基準法は改正されることもあるため、変更前に必ずチェックしておきましょう。

もし、労働基準法に違反する内容であれば、労働者の合意があっても変更は無効となります。

また、労働条件通知書に内容が変更になる可能性がある旨を記載していなかった場合などは、労働条件を変更できないこともあるため、注意が必要です。

労働条件の変更は口頭でも可能なのか?

労働条件の通知
労働者に対して労働条件を明示する際や変更が生じた際には、口頭で伝えても問題ないのでしょうか。
労働条件通知書の必要性や具体的な記載事項とあわせてご紹介します。

労働条件の明示には労働条件通知書が必要

企業と労働者の間で雇用契約を結ぶ際は、口頭でも成立します。
そのため、雇用契約書を作成しない企業もあるようです。

ただし、賃金や労働時間などの労働条件については、労働条件通知書と呼ばれる書面を作成することが義務づけられています。

労働条件通知書は雇用契約書とは異なり、企業と労働者の双方が合意して署名と捺印を取り交わす必要はありません。

企業が労働者に対して労働条件を通知するためのもので、企業と労働者の間で解釈の違いからトラブルに発展することがないようにするために作成します。

労働条件を途中で変更する場合も従業員への説明が必要ですが、その際は「労働条件変更通知書」を作成することが望ましいとされています。

労働条件通知書の記載事項について

労働条件通知書には具体的にどのようなことを記載するのか「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」に分けてご紹介します。
さらに、2024年4月以降に追加される予定の明示事項についても確認しておきましょう。

絶対的明示事項とは?

労働条件通知書に必ず通知しなければならない決まりになっているのが「絶対的明示事項」です。

具体的には、以下のような事項が該当します。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  • 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
  • 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
  • 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

出典:厚生労働省「労働基準 よくある質問

相対的明示事項とは?

一方、必ず記載する必要はなく「企業によって規定を設けている場合に明示したほうがよい」とされている事項のことを「相対的明示事項」といいます。

具体的な内容は、以下の通りです。

  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  • 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

出典:厚生労働省「労働基準 よくある質問

2024年4月以降の変更点について

2024年4月には労働契約法制の見直しが行われ、労働条件明示事項が追加されることになります。

まず、現行の「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」に加え「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されます。
これにより、将来的に配置転換などがあり、変更になる可能性のある就業場所や業務の範囲が明示されるようになるのです。

また「更新上限の有無と内容」に関する事項も追加され、有期契約労働者に対して、通算契約期間または更新回数の上限を明示する必要性が出てきます。

さらに、労働契約の更新が通算5年を超えた労働者が期間の定めがない労働契約に転換できる「無期転換ルール」について「無期転換申込機会の明示」と「無期転換後の労働条件の明示」が追加されます。

労働条件の変更を口頭で受けることのリスク

労働条件通知時のリスク
企業が労働条件を変更する際には労働条件通知書の発行が義務づけられています。
もし通知書の提示がなく、口頭のみで対応された場合には、労働者にとってどのようなリスクがあるのでしょうか。

どのような労働条件で働くのかが不明確になる

口頭だけで労働条件の説明を受けた場合、何らかのトラブルが起きたときに「言った」「言わない」の争いになってしまう可能性があります。

また、きちんと説明を受けていたとしても、解釈の違いによりトラブルになることも考えられるでしょう。

例えば、企業側から「給料は月30万円」という説明を受けた場合、支払い方法が「月給」なのか「日給月給」なのかによって実際に受け取れる金額に差が出ることがあります。

給料の支払い方法が記載されている労働条件通知書があれば、企業と労働者で異なる解釈をしてしまうことを回避できるでしょう。

権利を主張しづらくなる

賃金や残業代の支払い、業務内容、有給休暇の付与日数など、事前に説明を受けていた労働条件と異なるようなことがあれば、通常は労働者がその権利を主張できるはずです。

しかし、労働条件通知書がない場合は「企業側が本当にそのように言ったのか」を証明できず、権利を主張することが難しくなる可能性があります。

その結果、労働者側の請求が認められないという事態もあるため「権利主張のための証拠」としても、労働条件通知書が交付されるべきです。

まとめ

企業が労働者に対して明示する労働条件は途中で変更できるのか、変更する際は口頭でも可能なのかについて詳しくご紹介しました。

企業が労働者を雇用する際は、労働条件を明示することが義務づけられています。

もし、途中で企業が労働条件の変更を希望しても、労働者が不利益になるような内容の変更は認められません。

企業と労働者、双方の合意があって変更する場合は、口頭だけでなく「労働条件通知書」を交付し、変更の内容を記載しておく必要があります。

本記事では、労働条件通知書が交付されず口頭で説明を受けた場合に考えられるリスクについてもご紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

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